染色家・小室真以人さんに聞く「あなたが守りたい桜とは?」 - FOR A SUSTAINABLE FUTURE BOTANIST

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染色家・小室真以人さんに聞く「あなたが守りたい桜とは?」

ソメイヨシノの木々から抽出した顔料で染められた繊維は、その花びらと同じようにピンク色に染まります。今回は、様々な植物から抽出した顔料で染め上げる草木染めの染色家、小室真以人さんをお迎えして、ソメイヨシノの隠された魅力、そしてそれを守り、受け継ぐことの重要性について聞いてきました。

染色家・小室真以人さんに聞く「あなたが守りたい桜とは?」

草木染による桜染を
父と共に伝承する

心身ともにいてつくような冬をこえると、私たちを晴れやかな気持ちで迎え入れてくれる桜の季節が到来します。そんなあたたかなパワーを持つ桜ですが、日本に咲き誇る約8割がソメイヨシノと言われています。そんなソメイヨシノに、我々はなぜ惹かれてしまうのでしょうか?
草木染、なかでも桜染による染物家として知られる小室真以人さんに、桜に魅了されるようになったきっかけを尋ねると「染物屋というか丹後ちりめんを作って船でおろすような稼業を江戸時代にやっていて、それが1度途絶えてしまっていたんですが、父が、桜でピンクに染める染物をやりたいと草木染を始めたのを小さい頃から見てまして。父と一緒に山に行ってカブトムシや山菜をとったりして遊んでいる延長で、山から種をとってきて植えた山桜や接木によるソメイヨシノが実家の庭にあるのですが、これ食べれる、これ染めれるみたいに父と遊びながら草木染の世界、特に桜に惹かれていった感じです。高校生くらいになると桜染をできるのが父と僕くらいしかいなかったこともあり、また染めに惹かれていたこともあって、少しずつ父の仕事を手伝うようになっていきました。」


桜の隠された魅力は木にもあるんです。
木に詰まった栄養素が顔料となり花のようなピンクの染物に。

桜染と聞き、桜の花びらを顔料として、あのピンク色の染物ができあがると想像してしまう人もいるのではないでしょうか?一見とても不思議に感じてしまいますが、茶色い木の部分をアルコール成分などを掛け合わせ煮出すことで、枝や幹からピンク色のエキスだけを取り出し、あの美しい色が表現できるのだという。

「雪が積もり折れてしまった枝や寿命を迎えた木などを譲ってもらい、染物の顔料としているのですが、いつの時期の枝を使うかによっても、その色が異なります。桜が花を咲かせ種ができる直前、12月から3月くらいまでの枝が最も理想的です。夏秋と栄養を蓄えて花を咲かすのですが、桜の木がピンク色の花を咲かせるための栄養素を取り出し顔料とすることでピンク色に染まるのですが、それが1番つまってるのは花が咲く前です。また、その年の気候などによっても変化するのですが、煮出して色素を取り出してから1週間ほどおいて染めるのが理想的で、2週間、3週間と時間があけばあくほど、色が変化していってしまいます。譲ってもらった枝を保管し使用することもできるのですが、保管していると、どうしても乾燥がすすみ、ピンクだった色素が茶色に変わっていき、抽出できるピンクの色素が減ってしまうので、譲ってもらったものをなるべく早く煮出すのがベストですね。」


桜が染める。私が染める。
桜染のアーカイブを後世に。

その美しい花だけでなく、桜の木の命そのものが、私たちに晴れやかな気持ちを運んでくれているのかもしれません。また、小室さんの活動をお聞きしていると、小室さん自身も周囲に多くの影響を与えているのだと感じさせられます。

「僕は桜染のアーカイブを作るのが好きで、記録として、この桜がこのようなピンクに染まったという記録を残していきたいんです。ワークショップなども開き、そのアーカイブをお見せしながら、みんなが家庭のキッチンでも草木染ができたら素敵だなって。また、僕は小さい頃から草木染に触れていましたが大学で工芸を学んでいたときに、ロストテクノロジー、失われた技術ではないですが、化学染料に置き換わっている事実を改めて実感したこともあって。明治時代に草木染がなくなっていくのですが、資料として写真、ましてや動画なんてその時代はありませんでしたから、それらの資料が残っていなくて。もちろん職人の世界なので見て覚えるではないですが口伝で伝わっていった技術でもあると思うので、文章やその時代に作られた染物の実物を紐解いていくしか、その技術を学ぶ方法がないんです。そういうこともあってアーカイブを作るのが好きですね。」


桜のおしとやかなピンク色から感じられる
桜が持つ包容力を守りたい。

小室さんが手掛ける草木染は、もしかすると途絶えてしまった技術かもしれません。誰かが継承しているからこそ、私たちは草木染ならではのピンク色の衣類を楽しめているのですが、実は日本全国の桜も、その多くが寿命を迎えるといわれています。日本の桜の8割がソメイヨシノだとされているのですが、そのソメイヨシノのほとんどが、昨今寿命を迎えるとされ、桜を守る必要性が迫れています。小室さんに守りたい桜を尋ねると「やっぱり色になります。ソメイヨシノって実はそんなに派手なピンク色ではないんです。散り際に中央から赤みが強くなっていって散るんですが、咲いた瞬間は、ほんのりとした白っぽいピンク色で。それがすごく素敵な色だなって思います。ちょっとひいた感じの、脇役というか、桜の性格というか、植物の特性なのか、そんなものが、熊さん・八っつぁんの落語のように、桜の下では無礼講ではないですが、いろんな物事を包み込む包容力みたいなものを、みんなに与えてくれているのかな、なんて、ちょっとスピリチャルな話ですが考えたりしています。そんな要素までをうまく取り出して染物にできたらすごく素敵だなって思っています。」

皆さんには、愛する桜がありますか?また、守りたい桜はありますか?

Maito Design Works
桜染 さくらぞめ

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